2006年2月12日

今日本でも公開されている、スティーブン・スピルバーグの最新作「ミューニック」を見ました。たいへん興味深い題材で、俳優も良いのですが、結局はスピルバーグがイスラエルを支持していることを改めて強調しただけの、残念ながら失敗作でした。特にナチスに迫害されたユダヤ人が、今度は殺す側に回ることについての苦悩が、ほとんど描かれていませんでした。主人公が終盤に味わう苦悩は、狩る者が狩られる側になり、戦友が次々と殺され、家族の周辺にまで危険が及び始めたからに過ぎません。「敵を憎むことを学んだ」ことによってのみ、国を持つことができたイスラエル人の苦悩は描かれておらず、主人公は国の任務のためには敵を殺すことに疑いを持たない、いわば忠実な兵士であります。Ellie Wiesel のNight三部作の第二部Dawnに描かれた、イスラエル地下組織の兵士が英軍の捕虜殺害にあたって抱くような心の葛藤は描かれていません。その意味では、イスラエル対アラブという極めて今日的な題材を選んだ勇気には拍手を送りますが、浅い映画に終わりました。(手だれの監督なので、アクションシーンには当然迫力があって、楽しめるのですが)

私はイスラエルに何回か行っており、知人も何人かいます。映画の中で、私が的を得ていると思ったのは、主人公の母親が「どんな犠牲を払ったにしても、このイスラエルこそが私たちの帰る故郷なのだ」という言葉でした。これは多くのイスラエル人が、ほんとうに強く感じていることです。